はじめに:あのときの私は、壊れかけていた
私は30年近く、製造業の技術系企業で働いてきました。
エンジニアとして現場に立ち、汗を流し、やがてマネジメント職へ。
本社と子会社を結ぶ“橋渡し役”として、管理職を任されたのは40代半ばに差し掛かった頃でした。
「この役割を全うできれば、きっと評価される」
「もうひと踏ん張りすれば、楽になる」
そう信じて、がむしゃらに働いていました。
けれど、気づかぬうちに私は心のブレーキを失っていたのです。
そして、ある日。
医師から告げられた言葉――「うつ状態です」
これが、私の人生にとって、大きな“転機”の始まりでした。
第1章:本社と子会社の“板挟み”という苦しみ
私は地方の子会社に籍を置きながら、本社との調整役を務めていました。
- 本社からの要望を現場に伝え
- 現場の意見を本社に上げ
- 双方の衝突を調整し、進捗を管理する
一見すると「潤滑油」のようなポジションに見えますが、実際は違いました。
本社からの無理難題
- 「来月からコスト10%削減で頼む」
- 「納期は前倒し。現場の工夫でなんとかして」
- 「この資料、明日の朝までに頼む」
現場の事情などお構いなし。
数字とスケジュールだけが先行する指示が、毎週のように飛んできました。
「どう伝えたら納得してもらえるか」を考える余地もない。
そのまま丸投げで現場に伝える役割に、私はなってしまっていたのです。
第2章:現場からの反発と、信頼の喪失
そんな本社の要求を、私は現場に伝えました。
当然、反発されます。
- 「本社は現場を何も分かっていない」
- 「またあんたか。俺たちの敵なのか?」
- 「“橋渡し”じゃなくて“使いっ走り”だろ」
最初は丁寧に説明していた私も、やがて言い返す力を失っていきました。
「こっちだって好きでやってるんじゃない」
そう言いたくても、言えない。
伝えなければならない。結果を出さねばならない。
その頃から、誰とも心を開いて話せない状態になっていきました。
第3章:上層部の“理不尽”という名の重圧
ある時、上層部からこんな言葉を浴びせられました。
「あいつら(現場)が言うことを聞かないのは、お前のマネジメントが甘いからだろ」
「うまく立ち回って、本社と現場の“間”を取るのが仕事だろ」
それはもう、“命令”に近い口調でした。
言い返せない空気。
飲み込むしかない理不尽。
責任だけが、私の上に降り積もっていきました。
そんなある朝。
会社に向かうために玄関を出た瞬間、急に足が動かなくなったのです。
第4章:「うつ病」との診断
翌日、妻のすすめで心療内科を受診しました。
医師の問いかけにうまく答えられない。
涙が止まらない。
過呼吸になりそうなほど、体がこわばる。
そして下された診断は、
「うつ病の初期状態です。すぐに休職を考えた方がいい」
その言葉を聞いたとき、頭の中は真っ白になりました。
「自分が“うつ”? そんなはずは……」
「休むわけにはいかない。俺が抜けたら、現場が回らない」
でも、本当はわかっていたのです。
限界は、とうに超えていたということを。
第5章:「会社にしがみつく」意味を見直した瞬間
診断後、上司に報告すると、返ってきたのは冷たい一言。
「そうか。でも、プロジェクトは止められないからな」
「無理のない範囲で、テレワークでやれることはやってくれ」
その言葉に、何かがぷつんと切れました。
「この会社に、自分の人生を捧げ続ける意味があるのか?」
この時、心の奥底から“退職”という選択肢が芽を出したのです。
第6章:早期退職という選択
それからしばらく休職し、静養しました。
散歩しても、テレビを観ても、何も心が動かない。
ただ、眠れない夜を何度も過ごしながら、じっくりと考えました。
- これからの人生、会社に使い潰されていいのか?
- 退職金と貯蓄で、すぐに困ることはない
- 何より、“心が壊れた”ことに目を背けてはいけない
そして私は決意しました。
「このまま会社に人生を握られたまま終わってたまるか」
「会社にしがみつくよりも、自分の人生を取り戻す方が大事だ」
それが、早期退職の決断でした。
おわりに:壊れかけた心が教えてくれたこと
私は、うつ病を経験してようやく“自分の限界”を知りました。
そして、早期退職という選択によって、
「自分のために生きる」ことを初めて本気で考えるようになりました。
たしかに、辞めたあとも不安はあります。
でも、もうあの地獄のような日々には戻らなくていい。
それだけでも、私は退職してよかったと心から思っています。
あなたに伝えたいこと
もし今、あなたが私と同じように、
仕事の重圧に押し潰されそうになっていたら。
- 「休む」ことは逃げではありません
- 「辞める」ことは終わりではありません
- 「心を守る」ことは、最も優先すべき“仕事”です
あなたの心と身体は、かけがえのない資産です。
どうか、それを大切にしてください。
※本記事は筆者の実体験に基づいたものであり、医療・投資・ライフプランニングなどの専門的アドバイスを目的としたものではありません。
コメント