はじめに:早期退職の「その後」は、静かに始まった
「お疲れさまでした」
最後の出社日、オフィスの出口でそう言われた瞬間。
何か大きな区切りを迎えたような気がしました。
でも、自宅に戻り、着慣れたスーツを脱いで洗濯機に放り込んだとき、
ふと心にぽっかりとした空洞ができたのを感じました。
「あれ……これで本当に終わったのか?」
退職してからの3ヶ月間。
それは、“自由”と“迷い”が交錯する、想像以上に静かな時間でした。
第1章:退職した「実感」が湧かない
退職翌日。
目覚ましをかけずに起きた朝は、なんとも言えない開放感がありました。
コーヒーを入れ、ゆっくり新聞を読む。そんな時間が“自分のもの”になった喜び。
でも、その感覚は長く続きませんでした。
1週間後:「平日が空っぽ」に感じる
会社を辞めたのに、体はまだ“出勤モード”。
朝9時になるとそわそわして、
「今日は定例会議の日だったな」などと考えてしまう。
スーツを着ていないのに、どこか落ち着かない。
「今日、自分は何をして生きてるんだろう?」
そんな問いが、何度も頭をよぎりました。
第2章:ふとした瞬間に「会社」を思い出してしまう
買い物帰り、近所のコンビニでふと見たカレンダー。
「ああ、もうすぐ中期経営計画の提出時期だな」と自然に思った自分に驚きました。
もう関係ないはずなのに、脳のどこかがまだ“会社員”として動いている。
同僚からの連絡に心がざわつく
元同僚から届いたLINE。
「来月の組織変更、佐藤さんが本社に戻るってよ」
「そっちはどう?自由満喫してる?」
「いい感じだよ」と返したけれど、心の中はざわざわしていた。
自分だけが時を止めているような、取り残されたような感覚。
同時に、あの忙しさ、理不尽さ、会議の山積みの中にも、
“社会に関わっている実感”が確かにあったのだと気づかされた瞬間でした。
第3章:退職前に思っていたほど「楽しくない」
正直に言えば、もっと楽しいと思っていた。
- 毎日が自由
- プレッシャーから解放される
- やりたいことをやれる
でも、実際は“何をすればいいかわからない”自分がそこにいました。
TODOリストだけが溜まっていく
退職前に書いた「やりたいことリスト」はこんな感じでした。
- 家中を整理整頓
- 旅に出る
- 趣味を再開
- ブログを始める
- 投資の勉強
でも、実際にできたのは、せいぜい散歩とちょっとした読書程度。
「やる時間はあるのに、やる気が出ない」
この矛盾が、自分の中にモヤモヤを生み出していました。
第4章:「本当にこれで良かったのか」と自問自答する日々
退職から1ヶ月が過ぎたころ、鏡の前でふと自分に問いかけました。
「今の自分は、誰からも必要とされていない気がする」
会社員時代は、部下の育成やプロジェクトの推進という“役割”があった。
でも今、自分に割り当てられた役割は「無職」。
時間はたっぷりあるのに、居場所がないような気持ちになる。
妻の一言に救われた夜
ある晩、夕食を食べ終えたあと、ぽつりと妻に言いました。
「最近、何をしても心が落ち着かないんだ」
「退職してよかったのかな、って思うこともある」
すると、妻は笑ってこう言いました。
「会社辞めて、すぐ楽しくなるわけないじゃん。30年働いてきたんだから」
「焦らなくていいんだよ。まずは“働いてない自分”に慣れようよ」
その言葉に、なぜか涙が出そうになりました。
第5章:3ヶ月後、少しだけ「心が自由」になった
退職から3ヶ月が過ぎたある日。
近所の図書館に行き、たまたま手に取った本を2時間かけて読みました。
読み終えたあと、窓から入る風をぼんやりと感じながら、こう思いました。
「こういう時間が、自分のペースなんだな」
会社のリズムではなく、自分のリズム。
誰かに求められるのではなく、自分の心が向かう方向に少しずつ歩いていく。
まだ確信はないけれど、
少しずつ“自由に生きる感覚”が芽生えているのを感じ始めた瞬間でした。
おわりに:早期退職は「開放」ではなく「変化」
会社を辞めたからといって、すぐに楽になれるわけではありません。
自由には「自分で責任を持つ」という不安がついてくる。
でもその不安と向き合いながら、ゆっくり自分を取り戻していく。
それこそが“早期退職後のリアルな過ごし方”なのだと思います。
今、この瞬間をどう感じるか。
それが、これからの人生をつくっていく鍵になるのかもしれません。
※本記事は筆者の実体験に基づいたものであり、医療・投資・ライフプランニングなどの専門的アドバイスを目的としたものではありません。
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