はじめに:早期退職を「決めた後」が本当のスタートだった
「早期退職します」
上司にその言葉を伝えたのは、ある日の午後。
書類を出し終えた瞬間、肩の荷が降りた気がしました。
しかし、その夜。
自宅のソファで一人、天井を見つめながらこう思ったのです。
「あれ、本当にこれでよかったのかな……?」
これまでの人生、会社というレールの上をずっと走ってきました。
気がつけば50代。管理職として20人を束ね、年収も悪くなかった。
そんな私が“レールから降りる”という決断をした今、
胸の中には期待と同じくらい、いや、それ以上の不安が渦巻いていたのです。
「会社に縛られない生き方」への期待
「定年を待たずに会社を辞める」という決断は、安易なものではありませんでした。
けれどその一方で、私は間違いなく“自由”に対する強烈な期待を抱いていました。
会社に縛られないとは、どういうことか?
- 朝の満員電車に乗らなくていい
- 上司の顔色をうかがわなくていい
- 本社と子会社の板挟みに悩まされなくていい
- 売上目標や進捗管理を考えなくていい
この「〜なくていい」の積み重ねが、どれだけ心を軽くするか──
それを想像するだけで、少し心が弾みました。
自分の時間が、自分のものになるという贅沢
私は退職後にやってみたいことを、手帳に書き出してみました。
- 平日の朝、カフェで読書
- 家族との食事
- 放置していた資産運用の見直し
そんなささやかなことが、これからの「私の仕事」になる。
そう考えると、自由とは、時間の主導権を握ることなのだと、改めて気づきました。
しかし、頭をもたげる「レールを外れた不安」
期待が大きくなる一方で、不安も同じくらい膨らんでいきます。
お金の不安:これで本当に大丈夫か?
退職金、貯蓄、投資──一応、計算上は60代後半まで働かなくてもなんとかなりそうでした。
けれど、将来は誰にも読めません。
- 「大きな病気をしたらどうしよう」
- 「年金は本当にあてになるのか?」
- 「インフレで生活費が高騰したら?」
お金に関する記事を読むたびに、心がざわつきました。
「想定外」が起きたときに、収入源がないという状況は、想像以上にプレッシャーでした。
孤独の不安:人との関わりが激減する怖さ
これまで毎日、20人の部下と接し、プロジェクトの進捗を管理してきました。
昼食も会議も雑談も、すべてが“誰かと一緒”だったのです。
それが急に一人になる。
- 会話の相手がいない
- 誰にも必要とされない
- スケジュールに誰かの予定が入ってこない
「自由」と「孤独」は、紙一重なのかもしれない──そんな感覚がありました。
有給消化の2ヶ月間に感じた「モラトリアムのような日々」
退職届を出してから、実際の退職日まで2ヶ月間の有給消化に入りました。
この2ヶ月は、私にとって人生の“緩衝地帯”のような時間でした。
朝の風景が変わった
いつもの通勤時間、ベランダに出てコーヒーを飲みながら街を眺めてみました。
スーツ姿の会社員たちが小走りで駅へと向かっていく様子を見ながら、
「もう自分は、あの流れの中にはいないんだ」と実感しました。
それはどこか“脱落者”のような気もしたし、
“解放された人間”のようにも感じました。
手放した安心感、手に入れた不確かさ
平日の午後。
本棚から一冊の小説を取り出して、数時間かけて読了しました。
こういう時間を、30年間で何度持てただろう?
時間はたっぷりあるのに、どこか不安で、心の底から楽しめない自分もいる。
「この自由は、本当に自分の選択だったのか?」
「会社を辞めたことで、社会的に“無価値”になってはいないか?」
そんな問いが頭をよぎります。
妻との何気ない会話が、心の支えになった
そんな日々の中、ある夜、妻とこんな会話をしました。
妻:「今日、一日どうだった?」
私:「うーん……ぼーっとしてただけかな。でもそれが嬉しいような、怖いような」
妻:「それでいいと思うよ。しばらくは、ぼーっとする時間が必要なんだと思う」
私:「でも、社会から降りちゃった感じがするんだよね」
妻:「じゃあ、降りたぶんだけ、自分の“これから”を好きに決められるってことだよ」
この言葉にはっとしました。
「降りる=終わり」ではなく、「降りた=始まり」なのだと。
まとめ:期待と不安を抱えて進む、それが「早期退職後」のリアル
「早期退職」はゴールではなく、新しい人生のスタート地点。
自由に生きたい気持ちと、安定を手放す怖さ。
その両方を抱えながら歩き出すのが、リアルな早期退職後の姿だと思います。
有給消化の2ヶ月間は、自分と向き合う貴重な時間でした。
そしてその時間があったからこそ、私は“第二の人生”をしっかりと見据えることができたのだと思います。
あなたがもし、今、同じような境遇にいるなら伝えたい。
不安があるのは、真剣に生きようとしている証拠。
自由を選んだあなたには、それを形にする力がきっとある。
次回は、退職後にどのように時間を使い、自分らしい生き方を作っていったかについて書いていこうと思います。
※本記事は筆者の実体験に基づいたものであり、医療・投資・ライフプランニングなどの専門的アドバイスを目的としたものではありません。
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